1. 情報は「知っている内容でも検索する」 [概要]
「知っている内容についても,再度検索する習慣」について,その良さや盲点を,この記事で考えていきます.この記事は、🌴働く環境を整えるカテゴリーのうち「1. 個人編」の記事です.
皆さんは,知らない情報屋や内容については,自然と検索すると思うのですが,知っている・理解したと感じた情報については,あまり検索や調査をしない行動パターンで日々を過ごしている方もおられると思います.
まずは,その習慣に潜む盲点やまずさなどについて考えます(2節).それを踏まえて,「知っている内容でも検索する」ことを薦める根拠・理由を,状況知識(3節)の観点と,視点を増やす(4節)観点で,それぞれ話していきたいと思います.
2. 知っている内容を再度検索しないとどうなる?
皆さんは「既に知っている内容 → 検索する」ような習慣は身に付いていますか? 困った時や,知らないものに対しては,Web検索などで解決法を検索していくことが,現代では素直な行動様式でよくある行動パターンだと思います.もしくは周りの詳しいひとに尋ねると思います.この流れはあたりまえというか自然に行って居ることと思います
※ 自分で解決するものは,すぐに検索に頼らず「自分で考えること」ももちろん重要です.しかし,この記事では,テーマの範囲外とします.
さて,問題は「知っている,聞いたことがある → 検索しない」の行動パターンです.たとえば「プーリング層」という基本的なDL用語(もとい部品)がありますが,あまりに基本的すぎる内容なので,その後は検索や調査しなかったり,再度,最近のテキストなどで復習したりはしないという方も多いと思います.
でも,このパターンで日々過ごしていると「新たな情報」や「新たな視点」を取りのがす可能性が高いです.これは勿体ないことではありませんか?それを防ぐためには,「知っていることでも(再度)検索・調査する」という習慣・クセを持っておくことが大事だというのが,この記事で薦める行動様式です.
既知のことについては再度検索や調査するクセがなく,そのせいで,世の中のアップデートに対して無知であったり,成長の機会である新たな視点・視座の獲得の機会を逸していることにもなります.次の3節,4節では,「新たな知識(3節)」「新たな視点(4節)」の獲得について,論点を整理してきます.それにより,探究は,知っていることに対しても再探究することが大事だとわかっていくと思います.
3. 対象に関する「知識」を取りこぼさないために.
3.1 知識の獲得は,油断していると「不十分な時」もある
知っていても「再度検索する」と,その対象に関する「新たな情報」を手に入れることができます.一方,その対象の情報の全容を知っていたつもりが,実は把握・理解している内容が,断片的な内容とか,「自分が本来知っておくと役立つ内容」に到達していなかった場合もあります.
これらのデメリット(勿体ない場合)を無くすには,知っている(と思っている)内容でも,再度おなじ「キーワード」で検索していくことが対抗手段となります.時には,論文を新たに読んだり,手広く周辺サーベイをする必要も出てくるなるでしょう.
3.2 どこを取りこぼすか:「プーリング層」での例
例えば,2節で例に挙げた「プーリング層」をもとに,再び検索・調査していくか,もしくは検索・調査はしないで放置するかで出てくる2者の違いについて考えてみましょう.
まずあなたは,Stanfordの古いYoutube授業や,ブログでの解説を見て,基礎的な初期CNNのローカルプーリング層([3 x 3]カーネルサイズ)の話が出てきて,それについては,学習・習得済みであるとします.それは,岡谷先生の深層学習[改定第2版]や,物体・画像認識と時系列データ処理入門など,(2023年現在の)多くの深層学習テキストで学べる内容と同じだと思います.
しかし,プーリング層について,このサイトや,Web検索,Google Scholarなどで更に調べていくとします.すると,画像認識分野の深層学習においては,「グローバル平均プーリング」や,その一般系「空間ピラミッドプーリング」など,「テキストでは触れられていないけど,中級者なら知っていて当然」のプーリング層も存在していることが,初めてわかっていきます.
このように,既に知っていると思っている単語「プーリング層」でも,もっと掘り下げた内容があり,「個々の基本的なワードについても,検索・探究をやめない」ことは大事であると,管理人としては考えます.「知っていることでも検索する」ことが,知りきっていない(見逃している)標準知識を追うことでは大事だと思います.
※ 「プーリング層」の場合,「単語の抽象度が高すぎる」ことも取りこぼしやすい原因だとは思います.
3.3 中級者の保持している知識には「偏り・欠落」もありがち
3.2節の例では,「中級以上だとさすがにそれくらいの技術は,知っていて当然でしょ」と思われる方もいるでしょうが,管理人はそう思っておりません.例えば,最近のAIエンジニアの方々などは,大学院でコンピュータビジョンの授業は受けずに,この業界に移ってきた方も多いです.ということは,研究室で専門の教員から(網羅的に)体系的に習ったことがないので,知っている知識は断片的でいびつなはずです.
また,自分で調査して情報・知識を深める意識や手段のレベルも高くないと,基礎知識や標準的な情報でも,結構抜けていきがちです.コンピュータビジョン専門で大学院を出た人でも,そのあと論文読む時間が仕事ではないパターンは日本だと多いはずです.開発業務で忙しくて,あまりチェック・更新できないと思います.そうなると,大学院を出た以降に登場してきた新しい標準的知識も欠落していがちです.
※ 用語集が「標準的知識」の体系化を狙っているのは,こうした話も理由です.ただ,全部網羅できるわけではないので,この記事のように検索・調査のテクをかくことで,「自力でも」探索・探究できるようになってもらいたいです.
4. 「複数の視点で観察できる」ことにもつながる
3節では,新たな知識獲得の視点で論じました.「知っているものでも検索する」ことは,その対象について「新たな視点を獲得する」ことにもつながります.
4節では,その「視点を増やす効能」の観点から,「知っている内容でも再度検索する」についてまとめていきます.
4.1 対象1つに対して,複数の視点をもつことができる
専門家(プロ)と素人の違いとはなんでしょうか?もちろん,知識が多いことだけでも素人との差が十分つけられると思いますが,大事なのは「対象を,複数視点から眺められること」であると管理人は思います.
素人は,視点が少ないので,専門的な対象を,うまく評価できません.どこにどう目をつけていいかわからないので,なんとなく「いいねぇ」とか「よくないかなあ」くらいの評価しかできません.それに対して,専門家やプロは,対象を多角的に,なおかつ段階的に批評することが可能です.また,他のプロでも思いつかないような独自の視点や評価軸を持ち出して,新たな視点を提供することもできます(これはトッププロが,大きな場で批評をする際に,求められる能力だと思います).
この記事ですすめる「知ってることでも検索する(再度調査する)」を続けていると,あなたの視点が「多視点化」していきます.なぜなら,いろいろな論文,書籍や記事,ソースコードなどで,これまで持っていなかった評価軸や視点に気づくことになります.
(自分とは異なる)他人の様々な評価や解説・批評に触れていくにつれて,あなた自身の脳内でも「新たな評価視点」に気づく段階にもなっていきます.結局は「繰り返し同じことについて検索すること」とは,「同じことを多角的に眺められるようになる」ことへと繋がっていくわけです.それなのに「この○○については十分に知っている」と,つきつめて再度探究することをやめると,○○に対する知識も視点も増えていきません.非常に勿体ない時間を過ごすこととなります.
4.2 複数の書籍や記事を見比べることも大事
ということは,複数の書籍や,Web記事,論文などを見比べていくことも,視点を増やす意味で非常に大事です.1つのサイトや1冊の教科書だけに過剰に頼りすぎていませんか?
この「トップレベルを目指すなら,参考書を3つ以上は使おう」という話は,受験テクニック本や,資格勉強本などでもよく書かれてきたことです.知識をためるうえでも複数の参考資料に頼るのは大事ですし,4.1節の「複数の視点を獲得する」観点においても,役立つ方針だと思います.1つの本や,1人の先生だけに頼ると,視点の固定化や視野狭さく,場合によってはカルト的なエンジニアや教授をフォローしてしまうことも招いてします.というわけで,「視点が異なる沢山の本や人をまんべんなく追う」ことが大事だと思います.
ただし,たくさんの書籍や論文を読みこなすのはつらいのがDL系の業界の現状です(数理や理論的にはさほど難解ではないのが救いですが).コンピュータビジョンでも, 手広く知っておこうと思うと,必須項目があまりにも多過ぎで,自分の取り組みたいことのある程度周辺について,深く詳しくなっておく路線が(生き残り戦略的には)賢明です.
※ 私の場合は,学習教材作成に仕事(出力・発信)をしぼっているからこそ,広く取り扱えているだけであることを留意されたい.私レベルまで入力・分析にこだわりすぎると,研究開発の出力が中途半端になりまずいです.入力・出力のバランスは,自分に合うレベルに調整しましょう
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5. まとめ
この記事では「知っていることでも検索・調査・探究をやめずに続けよう」ということを薦めました.また,それは知識の更新(3章)と視点を増やす(4章)ことに繋がることを整理しました.
記事内容の「Take home message」を,以下にまとめておきます:
- 既に知っている(と思っている)ワードでも,深層学習では進展が速く,教科書や記事で取り上げられていなかった内容まで進歩していたする
- プロなら標準的な内容でも、意外と見逃して知れていないこともある.
- 知っている技術・研究でも,「検索・調査・考えなおす」ことを継続しよう.
- 調べる情報源も1つに限らず,複数の視点を得られるよう行動すべし:
- 1つの教科書や論文,教科書・サイトばかりで学習を続けると,視野狭さくだけなく,出力としての発想の狭さ,成長機会の損失にもつながるので、注意が必要 (※ ただし「本物」に的を狭く絞ると,短時間で上手にはなりやすい.それらのバランスが大事).
- もちろん,その逆の「無駄に広く深く調べ過ぎ」もダメなので避けよう.なぜなら(多くの人や,前線のプレイヤーは)分析や情報管理よりも「さっさと、よいものを作る」ことが仕事である.(全体の把握や,参謀レベルの仕事は,管理職・役員レベルの仕事である)
- 既知の内容を再検索するだけでなく「知らないこと,困ったことを初めて調べる場合」においても,同じく「沢山の視点を得られていっているか?」を意識した調査や観察・思考をこころがけよう.
ちなみに,この記事の「検索・調査を,複数の多様な視点を得られるよう行う」と,トレードオフ関係にある「追い過ぎ,調べ過ぎ,1つの視点にこだわりすぎ」についても,のちにコラム記事にまとめたいところです.